2012年4月16日

Sakura-ConにおけるOrg-mode



(これはHideki's Random Stuff掲載、Whitepaper: Org-mode at Sakura-Conの和訳です。)

はじめに

本書ではコンベンションの管理に特化したOrg-modeの使用について説明しています

著者について

私はSakura-Con 2012(訳注:日本語正式名「桜コン」、「サクラコン」とも表記されます。)の日本人ゲストマネージャーとして17人のゲスト及びそのグループ(約60人)や30人近くのスタッフに係わるスケジュール管理、人事や現場管理などを担当しました。また、チームとしてアテンド担当スタッフと3人の通訳スタッフを含んでいます。


チームはコンベンション内外、80時間あまりのスケジュールを3日間の間に管理しました。

目的

日本人ゲスト担当チームとして、Sakura-Conにおいてはいくつもの考慮すべき点がありました。以下がそのいくつかの部分です。

スケジュール管理

Sakura-Conではスケジュールのシステムを使用しており、カレンダーに入力していく方法が採られ、複数の部署がそれらを参照、更新することができるようになっていました。これは巨大な会議室管理システムみたいなものであり、時系列の参照は容易ではあるものの、一覧性が乏しいものでした。(空き時間の参照などは容易にできるものの割り当て対象のリソースを追いかけるのには難しいものでした。)日本人ゲスト部門においてはより適切なソリューションが必要となりました。

スケジュール印刷

日本人ゲスト部門においては来賓及びスタッフに向けてスケジュールを作成し、配布しました。発行の作業自体はスタッフに委託していましたが、スケジュールが完了する前に作成を開始する必要性に駆られていました。

通訳スケジュール

アテンド担当者の他に、通訳の割り当てが必要でした。通訳はゲストではなくイベントに割り当てるため、通訳は独自のスケジューリングが必要になりました。スケジュールにおいては複数のイベントが同時に開催されているため、運用可能な通訳リソースの上限がイベントの最大同時開催数を決定することになります。これらも関連する変更がスケジュールに加えられた際に考慮する必要がありました。

スタッフ管理

Sakura-Con 2012においては新しいスタッフを多数採用する必要がありました。それぞれのスタッフにはチェックリストが設けられ、採用プロセスを管理していました。
それぞれのスタッフには来賓が割り当てられ、それらはそれまでのスタッフ経験や、嗜好など様々な要素をもとに決定していました。

Org-modeを使用した管理

Sakura-Con 2012の準備段階では、様々な種類の情報を管理する必要がありました。Org-modeにおいてはOrgファイルから様々な出力をすることが可能であったため、スタッフに必要な形で必要な情報を渡すことを可能にしました。

スケジュール

スケジュールは一覧性を高め、また、それと同時に詳細を込める必要がありました。そのため、それぞれの来賓のヘッディング化に一覧性を高めた時系列の表を非活性タイムスタンプとともに配置し、イベント名、時間、場所などを併記しました。


また、その下部にさらに詳しい情報をサブヘッディングとして入力し、アルファベット順に配置しました。


こちらには活性タイムスタンプを含んでいたため、この情報を元にiCalカレンダーファイルを生成することができ、通訳担当者がスケジュールをすることを容易にしました。


以下はそのサンプルです。(機密保護のため、以下の情報は一部削除しており、実際のコンベンションで使用されたものと多少異なります。)




これは確かに冗長なのですが、テーブルからカレンダー出力をすることが不可能であるため、このような形態に落ち着きました。また、それぞれのイベントをサブヘッディングとして持つことにより、それぞれに未定情報などTODO情報を持たせることが可能でした。


このファイルよりHTML出力、カレンダーファイル出力をすることが可能であり、印刷、通訳スケジュールなどに使用することが可能でした。


入力ミスに起因する問題以外はこのスケジュールは非常に役に立ちました。


来賓管理

Sakura-Conでは来賓招致の際にいくつかのプロセスを踏み、例えば招待状の送付などが含まれます。これらもOrg-modeで作成したチェックボックスなどで管理し、関連する情報にリンクがなされていました。これらの情報もHTMLファイルなどで出力し、共有が可能でした。

スタッフ管理

スタッフに関しても来賓と同じように管理されていますが、こちらは違う種類のチェックリストが使用されていました。これらには連絡情報や面接の情報などが含まれていました。これらの情報を元にスタッフのリストなども作成しました。

チームサイト

上記の情報を使用することにより、ゲストスケジュールやスタッフ情報などを含んだ独自のチームサイトを作成しました。スマートフォンのブラウザを使用することによりどこでもこれらの情報を参照することが可能でした。静的なサイトではあったものの、現場での更新も可能でした。バックエンドにはGitを使用し、更新をプッシュすることが可能でした。更新は専らClearホットスポットにつないだノートから行いました。緊急用にUSBに一通りの環境(完全なEmacsの構成、SSH、Gitなど)を含んだものを準備しており、必要な場合は他の場所からも更新することができるよう準備していましたが幸いなことにこれは使用されませんでした。


チームサイトはチーム外の部署からも参照され、一週間で3500件以上のリクエストを受け、その分部署への問い合わせが削減できたことになります。

将来に向けて

今回Sakura-Con 2012では日本人ゲスト部門においてOrg-modeは広く使用していました。静的なページをベースにしたシステムでもその有効性が確認できましたが、将来的には必要に応じて的確な方法で情報を表示するようなフレームワークの開発、使用も視野に入れたいと思っています。


また、今回、MobileOrgなどのモバイル統合などの試みは行いませんでしたが、これらについても今後取り入れていく予定です。

2012年2月17日

Org-modeとこれを使うべき理由

(これはHideki's Random Stuff掲載、Org-mode and Why You Should Consider Using Itの和訳です。)
個人的にOrg-modeは2012年の最初の二ヶ月で発見した最もいいものであると思っている。現在、これをノート取りや、コンベンション業務や、ドキュメント作成などに使用している。
プレーンテキストベースでマークアップが可能なこの方式はChromebookなど使用しているプラットフォームが多様化している状態で非常に有用なものとなった。

バイナリブロッブはダメだ

過去にも標準化されていない形式のファイルや、果てはwinmail.datなどに関していろいろと文句を書いてきた。(ところでMicrosoft、いつになったらあの忌々しいwinmail.datをネットから撲滅してくれるのか。)
どんなオフィスソフトでもこの問題があったが、OpenDocumentや、ある意味Office Open XMLなどでこの問題は比較的解決に向かっており、また、市場を支配している(まだしているか……)独自形式のドキュメントを撲滅する意味ではこの動きは非常に重要な動きであると評価できる。
しかしながら、これらの標準化はドキュメントのアクセス性を上げる点を上げるものではない。ファイル形式がオープン化したところで、プレーンテキストとは違ってある程度複雑なソフトがないと開くことができない。TeX(LaTeX)は長く存在しており、プレーンテキストによる編集を可能にしているが、容易に編集するには敷居が高すぎる面がある、とはいえ、Microsoft Wordなどで編集するよりも100倍はましだとは思うけど。
Org-modeはプレーンテキストのシンプルなフォーマットであり、このドキュメントは広い範囲のプラットフォームで開き、編集することができる。PC、Mac、Chromebook(とはいえ、ChromeOSにはソフトウェアのコンセプトがないため、やりにくいのは確かではあるが)や電話などで編集ができる。変換作業にはPCが必要だがそれに関しては後述。

構造化されたドキュメントが簡単に

Org-mode(TeXやLaTeXなどでも言えることだが)で重要だと思うのがこれが構造化されたドキュメントを強制することである。受け取るファイルでヘッダがフォントサイズしていだったり、前述の原因により目次が通常のテキストで記述されていたりと酷いものもよく見かける。
これはソフトを使う人の能力に依存するものも多いため、一絡げに評価できるものではないが、Org-modeの場合、構造をきちんと持たせることにより情報管理がより容易になるという正の動機がある。

プロジェクト管理が簡単に

最近の仕事はプロジェクト管理が主なわけだが、Microsoft Projectなどのプロジェクト管理システムを使用したがあまり役に立つものではなかった。これはチャートなどを作るには役に立つかもしれないものの、これらのソフトが想定する制限項目などは必ずしも現場の状態、例えばスケジュールの変更や要求項目の変更などを反映したものではないことに気がついた。完璧な会社で働いていない限りはこれらは結局は絵に描いた餅になる。
つい先日まで、コンベンションのイベントの調整を行なっていたが、Org-modeでは依存などの全体像を非常につかみやすいため、延べ80時間にも及ぶスケジュールの更新を非常に短時間で行うことができた。
また、これを他の人に渡すときがまた非常に便利なのだ。それは事項に続く。

ドキュメント作成が簡単に

Org-modeでの編集作業が完了するとそれをHTML、OpenDocumentやLaTeXに変換するのは単純な作業である。
ドキュメントにはスプレッドシートで作成できるようなテーブルを含ませることができ、数式を含めることでさえできる。要はテキストベースのスプレッドシートである。
これにより、情報管理からドキュメント作成までシームレスなパイプラインを持つことになる。

短所

Org-modeの短所について言及しないとフェアではなかろう。図などを多く含む書類の作成にはプレゼンテーション作成ソフトや描画ソフトが向いている。(頼むからこの目的にMicrosoft Excelを使うのはやめてくれ!)埋め込み自体はできないことはないものの、それらは外部的に作成する必要が出てくる。その他に関してはOrg-modeは非常に優れた汎用情報管理システムであり、書類編集のツールである。